使いにくい手順があっても、利用者は周囲の人や道具との関係の中で、その手順を選んでいることがあります。
エスノグラフィーは、人々の生活や仕事へ継続的に関わり、行動と、その人たちが行動に与える意味を理解する調査方法です。
短時間の現場見学と同じ意味にはせず、観察する期間と、研究者の関与の程度を明確にします。
Nielsen Norman Groupの整理でも、自然な環境への持続的な関与を特徴として扱っています。

周囲の人との関係を観察する

たとえば、店舗で共有端末が使われない理由を調べる場面を考えます。
操作画面だけを見れば、個人の使い方の問題に見えるかもしれません。
しかし、複数の時間帯に観察すると、端末の置き場、交代時の引き継ぎ、店長へ確認する習慣が関わっている可能性があります。
個人への質問に加えて、誰が何を知り、誰に相談できるかという関係を記録します。

観察した事実と、調査者の解釈は分けます。
端末を使わなかった事実だけから、「デジタルが苦手」と理由を決めないようにします。
その場で何が起きていたかを本人に聞き、別の場面でも同じ説明が成立するかを確かめます。
最初の仮説に合わない行動も残すことで、理解を修正できます。

調査者の関与を記録する

現場へ入ること自体が、人の行動を変える可能性があります。
普段より丁寧に記録する、上司の前では失敗を話さないなどの影響を想定します。
調査者が作業を手伝った場合も、何を手伝ったかを記録します。
「自然な行動を見た」とまとめるより、観察の条件を残すほうが結果を評価できます。

調査前には、目的、参加の範囲、記録、共有する相手を説明して合意を得ます。
現場の責任者の許可だけで、すべての個人の発言や映像を自由に使えるとは考えないようにします。
直接観察できない時間や、話してもらえなかった内容は、理解の限界として示します。

設計に渡す情報

店舗の例なら、画面の変更だけでなく、設置場所、端末の割り当て、引き継ぎの支援も改善案になります。
調査結果を機能要望へ早く圧縮せず、どの状況でその案が役立つかを残します。
少数の現場で見つけた関係から、全店舗の割合まで推定することはできません。
広がりを把握するには、異なる条件の現場との比較や定量調査を組み合わせます。

限定した訪問は顧客現場訪問、個人の経験を詳しく聞く方法はデプスインタビュー、数で傾向を調べる方法は定量市場調査を参照してください。

参考資料